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デジタライゼーションをしないという選択肢はない、改修工事の現場から

大成建設様の横浜支店では、築年数を経た建物を取り壊すのではなく、中で執務を並行させながら改修工事が進んでいます。
同支店の建物は工事が終わるとZEB(※)認証される予定です。

大成建設様の現場にお邪魔し、同社のデジタル活用の背景や全社的なサステナビリティの取り組みについてもお話を伺いました。

※ZEB: ゼロ・エネルギー・ビルディングの略で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギー収支をゼロにすることを目指した建物のこと

お話:

松浦司様(設備本部 設備企画部 設備計画室長 画像右側)
沼澤満様(横浜支店 横浜支店ビル グリーン・リニューアル工事 作業所長 画像中央)
佃憲哉様(横浜支店 横浜支店ビル グリーン・リニューアル工事 設備次長 画像左側)

※撮影時のみマスクを外しています

ー本日は現場の進行中にお時間を割いてくださり、ありがとうございます。はじめに皆様の役割についてお聞かせください

 

沼澤様(以下N):グリーンリニューアル工事の作業所長として、工事全般を統括しています。

佃様(以下T):工事の設備担当をしています。私自身は現場を複数兼務しており、入社3年目の設備担当が同現場を常駐管理しています。サブコン含め情報を共有しながら工事を進めています。

 

ー現場の情報共有や情報発信に、どのようにSPIDERPLUSが活用されているのでしょうか。

 

T: SPIDERPLUSにはサブコン担当者や弊社設備担当が各種検査の記録や改修工事前後の現場の情報をアップするほか、私からもSPIDERPLUSを介して情報伝達を行なうことがあります。

松浦様(以下M):設備本部の設備企画部設備計画室で室長をしております。
設備工事全般において、2024年の働き方改革関連法の適用に向けて生産性の向上を目的とした業務改革に加え、BIMを活用した業務の改善案を全国へ水平展開しています。

 

ー松浦様が働き方改革をとりまとめると、その内容が現場に伝わっていくという構造でしょうか。

 

M:働き方改革・生産性向上に向けて、全国支店、作業所から挙げられた課題をBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)にて、各支店を交えたワーキンググループで業務改善案を立案し、それを全国に展開しています。

 

デジタル導入の背景と課題

ー貴社のデジタル導入はいつまでにさかのぼりますか。

 

N:2000年代の半ば頃にインターネットを使ったサービスを介して現場や社内の情報共有を効率よく実施する取り組みが始まったと記憶しています。

 

ー個別の作業や検査ではなく、情報共有の効率化に端を発しているのは興味深いです。
そこからSPIDERPLUSの導入には、どのような経緯があったのでしょうか。

 

T:現場に携帯可能なタブレットが、2015年頃に導入されたのですが、当初は自社開発による図面閲覧・管理アプリを用いており、現場の様々なニーズに応えた機能の拡張が望まれるようになってきました。

その様な状況の中で、現場に出入りするサブコンの方々が先にSPIDERPLUSを使っているのを見ることもありました。
SPIDERPLUSならば1つで図面や写真に関する機能もまとまっていて、検査もでき、情報共有を効率よく進められることから、社内で認知が進み、使用が推奨されるようになってきました。

 

M:現場で作業するサブコンの方々の働き方改革のためには、業務効率化の取り組みが必要ですし、彼らがツール導入などの施策によって時間に余裕を持つことができることになり、その分コア業務に集中できるので生産性も向上します。

よってお互いの生産性向上のためにSPIDERPLUSを設備工事の施工管理ツールとして、今年度1年間試行的に弊社サーバーを立ち上げて全国の作業所で弊社社員及びサブコン社員にSPIDERPLUSを活用してもらうことにしました。

特に性能検査の実施において、SPIDERPLUSは外部測定機器との連携によって数値取得から規定値との良否判定が現場ででき、事務所へ戻れば帳票が完成しています。

従来の帳票作成で起こるような、取得データの転記に付随する人為的ミスの発生もありません。
こうした機能の特徴は我々ゼネコン社員にとっても1つずつのデータを見比べる、といった手間がなくなり、良否判定も一目瞭然なので効率化に繋がるのです。

 

ー貴社のデジタル導入はとても早かったのですね。様々な取り組みを早くに始められたからこそ気づくところも多々あり、そこから他のサービスにも目を向ける契機も生まれて、現在に至ったということでしょうか。

 

N:色々なツール・サービスを試しながら現場単位で情報交換を実施した末に会社で取り入れると、皆にとって使いやすいことがメリットになっていきます。

全社的に広がっていくことで、特定の現場だけではない平準化された業務効率化に繋がっていきます。

 

ー大手企業の中にはまず自社開発、というところもありますが、既にあるものを柔軟に取り入れる姿勢は当初からのものでしょうか

 

N:そうですね。自社で開発した場合、1年も経つと、現場では内容が古くなってしまいがちです。

M:そうすると今度は開発内容を守るための維持管理や改善、そのための人件費などが継続してかかります。
そこに労力をかけるのではなく、良いツール・サービスなどが出てきたら切り替えられるようにして、あくまで生産性向上のためにツールを手段として組み合わせるという考えです。

 

ー現場でSPIDERPLUSを使うのは若い方が中心でしょうか

 

T:まだ全ての現場に普及してはいませんが、図面管理や指摘管理、性能検査など若手以外も広く使われるようになってきています。

現在は、情報伝達手段として他のアプリも含め試行錯誤しながら併用している状況ですが、例えば品質管理プロセスの中で規定されている検査の記録をSPIDERPLUSで管理したり、専門工事業者で検査、保存する性能検査記録についても、ルール化することで運用の幅が広がり、普及につながると期待しています。

 

ー現場に出入りするサブコンの方々も貴社の社員の皆様も、全員にとって図面が共通項となり、社内に限るとSPIDERPLUSをアーカイブのプラットフォームとして機能させ、その他の個別機能の活用については現場や個々の判断ということでしょうか。

 

T:そうですね。基幹システムのX-grabにデータを保存していく方針と聞いていますが、そうすると情報が一元化できると思います。

M:会社単位ではX-grabが最大のアーカイブになり、現場単位の情報はSPIDERPLUSに蓄積し、その中から必要なデータをX-grabへ転送し保存することになります。

 

スクラップ・アンド・ビルドではない、改修工事という価値

ー横浜支店の現場は取り壊しではなく、中で執務を続けながら改修するという方針がとてもユニークです。
どのような経緯でこうした方針が決まったのでしょうか。

 

T:リニューアルするにあたって、執務者や什器備品類を丸ごと別の仮オフィスに移してから改修する、ということであれば、建物自体を建て直すのとどう違うのか、という声も上がります。

今回の取り組みは改修工事中にビルオーナーにかかるコスト面の負担を最適化していくことにもつながると考えます。

 

ー横浜には元々ZEB実証棟がおありでしたね。

 

T:弊社技術センターのZEB実証棟では、最先端の省エネルギー技術や太陽光パネルによる創エネルギー技術を導入し、高い性能を発揮することができました。
また、ZEB実証棟で採用した技術は、現在の省エネアイテムにも生かされています。

一方、コスト面から社会実装に向けての課題に直面したのも事実です。
費用対効果を考慮した汎用省エネシステム開発を進めていく契機にもなりました。

例えばZEB実証棟で開発されたシステムの一部に、汎用設備機器を組み合わせることで、より安価に省エネを実現していくことができます。

 

ー横浜支店の現場は、ZEB認証を取得していない建物と比べ、施工上の違いはありますか。

 

N:ZEB認証自体は設計段階で取得しますので、施工に際しては他の建物同様、設計図通りに施工すること自体は大きな違いはありません。

ただし、特にBEI値の計算に関わる施工を確実に行った記録を残すことがお客様への信頼につながりますので、自主検査や記録などを効率よく行なうためにSPIDERPLUSのようなデジタルツールの活用が効果的であると考えています。

 

ー大成建設様では、業務改革によって何を本質的に目指していますか。

 

M:直近の目標としては、2024年を見据えた取り組みです。
法適用によって、時間外労働の上限に規制が出来ます。
法適用に向けてまずは残業時間を削減することを目指しています。

SPIDERPLUSのようなデジタル技術を活用することで、業務の改善や生産性を向上させて残業時間を削減する、いわばデジタライゼーションを進めることが挙げられます。

現場のことを考えると、デジタライゼーションをしないという選択肢はないと考えています。
SPIDERPLUSを導入して、基幹システムと連携することによって、必要なデータを簡単に蓄積していくことを実現できます。

その先に業務プロセスやビジネスモデルを変革していくことで、新たな事業価値を生み出すこと、すなわちデジタル・トランスフォーメーションへと繋がっていくと思っています。

会社の更なる発展と業績拡大に向けて、デジタライゼーションにより本業の業績を拡大するのか、それともデジタルトランスフォーメーションにより新たな事業価値を創出するかは、今後取り組みながら見極めていくことになると思います。

 

ーありがとうございました。

 

終わりに

建設現場の仮囲いなどにも、サステナビリティの取り組みについて啓発する内容を見かけることが増えてきたように見えますが、業界全体としての取り組みはまだこれからです。

大成建設様では2022年4月にサステナビリティ総本部が発足し、組織体制を一元化させ、サステナビリティに関する戦略機能と事業推進機能を明確に区分した上で取り組みの加速を目指しているとのことです。

サステナビリティ総本部に、全社的な取り組み内容と、今後取り組もうとする方へのメッセージを伺いました。

2022年度の主な取り組み内容

環境や人権などサステナビリティ経営に関する役職員の理解を深めてもらうため、研修資料「TAISEI Sustainability Handbook」を作成し、自社のみならず、グループ会社の全役職員にも配布するとともに、各部門・支店・主要グループ会社を訪問してサステナビリティ経営説明会を開催しています。

また、主要グループ会社を含めた役職員全員に対してe ラーニングや役職別の集合研修等を実施しています。

これから取り組もうとする方への提言

サステナビリティへの取り組みは重要であり、事業を通じて環境・社会課題の解決に貢献し、企業の持続的成長につなげていくことが大切だと感じています。

最初から100点満点を目指すのではなく、事業部門と連携して取り組み可能なものから取り入れて、社内に浸透させながらレベルアップを図るとよいと思います。