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【インタビュー】改革推進の秘訣は『社長自ら動くこと』。熊本の電気工事会社が語る、これからの地方建設業の成長戦略とは?

お話:
白鷺電気工業株式会社
代表取締役社長 沼田幸広様(写真中央)

 

働き方改革、とは言うものの、実際に社内で進めようとするとスムーズにいかないことは珍しくありません。
白鷺電気工業では、代表取締役社長自らが動くことでベテラン社員も巻き込んだ社員たちの意識改革が行なわれました。
“九州の電気は自分たちが守る”という強い使命感のもと、どのような取り組みがなされたか、お話を伺いました。

時代に沿って当たりまえにしてきた変化

白鷺電気工業の歴史は、電柱上にある変圧器修理に始まった。
変電所、送電線、通信工事と、提供範囲を拡げるのと時を同じくして起こっていたことがある。日本のめざましい戦後復興だ。
社会が国家規模で大きな変革を遂げるのに沿うような変化と聞けば、社員全員が新たな潮流に対して開かれた姿勢でいるように受け取る人は少なくないだろう。

しかし、実際には決してそうというわけではない。
変化できる一部の社員がまず動き、そこから少しずつ動きが広がることで物事を乗り越えてきたのが同社の歴史である。

白鷺電気工業では、100周年で売上高100億円を達成するという目標を掲げている。
M&Aの実行もそこに含まれる。成長志向の原動力はいったいどこから来ているのだろうか。

現状維持では衰退するだけ。生き残るために成長し続ける。

沼田氏
沼田氏
建設業は労働集約型産業なので、何もしない限り人口が減って行けば衰退していくしかありません。
労働人口が減れば会社の売上が下がり、会社が成り立たなくなるので、生き残るためには会社も人も成長し続けないといけない。

沼田氏がこのような思いを持つに至ったのには、昨今の建設業をめぐる人手不足、物価や人件費の高騰、2024年問題などの、諸課題の存在が大きいのだろうか。


沼田氏
沼田氏
創業当初は戦後復興もあり、人がいれば売上が上がる時代だったが、私が社長に就任した時点では既にバブルもはじけていた。
そんな中で、単なる電気工事だけではいずれ限界が来るという危機感は当初から明確にありました。

こうした危機感のもとで自社を見つめた場合、特に課題を感じていたことは仕事の属人化だったと、沼田氏は続ける。


沼田氏
沼田氏
入社してから気付いたのは、仕事の属人化が起こっていたことです。
当時送電・変電・電設・情報通信の工事部がありましたが、一度配属されたら、ほとんどの社員が部署を異動することはありませんでした。
また、仕事のやり方が変わることに対しての抵抗感を持つ社員が多く、属人化が進んでいることに危機感を抱くようになりました。

ここから白鷺電気工業の取り組みが始まる。

 

DX・教育・組織改革、白鷺電気工業の取り組みとは

始めに手を付けたのはデジタル活用である。社長の沼田氏が自ら予算をとり、会社をDXすると宣言したのであった。

まずDX推進委員会を立ち上げることで、課長級の社員に対して何のためにDXをするのか、目的意識を浸透させることにした。
単にアナログだったものをデジタル化するのにとどまらず、表計算ソフトから特定の業務に特化したツールを導入し、いわば「デジタルからのデジタル化」も行なうことになった。

なかでも施工管理については、SPIDERPLUSを導入することで、業務の効率化を図ることになった。


沼田氏
沼田氏
現場では検査の実施とレポートが大量に発生するが、そこで使われる帳票や、検査や巡回などのたびに蓄積されていく現場の情報が属人化することなく、クラウド上に引き継がれていくことに意義がある

もう1つの大きな柱は教育である。
外部から講師を招くことで、半ば常識と化して久しい仕事の進め方が‘絶対ではない’という意識を創出することになった。
現場では誰もが大量の作業に忙殺されていて、教育に時間を割くことは容易ではないため‘見て学べ’という姿勢は珍しいものではない。

しかし、ときには特定の社員を指名して講習に参加させる等、全社的な教育に取り組むことによって、仕事の仕方について言語にして伝える習慣が定着するようになった。

 

組織の改革も大きなポイントである。
白鷺電気工業では、2021年から企画技術部という部署を新設し、建設ディレクターの育成を始めた。
現場の事務作業を担うもので、施工管理者と同じ目線で図面を書いたり安全計画書を作成したりするのが主な役割である。
単に紙の作業を行なうのではなく、現場代理人と対等な関係でディレクションをすることが特徴である。

 

近年は、建設現場で女性の技術者が増加している。そうした技術者たちが出産や育児休暇等のライフイベントでは現場を離れざるを得ない。
その期間に、企画技術部という部門から建設ディレクターとしての現場経験や知見を活かして、代わりに図面を作成したり、現場監督とほぼ同じ役割をこなすことができるようになれば、2024年問題の解消にもつながるのではないか、と同社では見通している。

 

白鷺電気工業では、こうした取り組みを始めるだけではなく、成果を出すための大きな特徴があった。

 

改革を進めるために、まずは社長が動く

会社の中で、力をもって何かを進められるのは経営だけだ、と沼田氏は語る。

一方的に物事を決めるだけではなく、朝礼などで考え方を発信することや、コミュニケーションを重ねることによって組織を最前線で率いていく立場と、改革を進める目的を知ってもらい、理解してくれる社員を増やしていくことを重視したのである。

 

50歳前後の社員にとっては、紙がなくなりパソコンやスマートフォンの操作も覚えなければいけない、大転換の時が急に来たことになる。
彼らの立場を考えると、最もきつい瞬間の到来といえる。

沼田氏がたびたび話すことがある。
それは組織のトップと、様々な取り組みの推進者との間で目の前の課題をオセロのように挟んでいき、引っくり返していくことである。率先して課題を潰していかないことには、変革は進まないのではないかと語る。


沼田氏
沼田氏
DX推進、と言っても“社長が使ってないじゃないか”と言われたら返す言葉がありません。
デジタルツールも社長の私が率先して、まずは使ってみるのです。
組織の中に抵抗はあって当たり前です。少しずつ理解を形成していくことが重要だと思っています。

皆が自分ごととして物事を受け止めることができるようになると、DXに関しても、施策を推進していくために私自身が関与することが減っていったとしても、いずれ回るようになるはずです。

目指すは『幸福度No.1の会社』

前述のように、社長の沼田氏が自ら率いて新たな取組を推進してきたが、そこには目指すものがある。
“幸福度No.1の会社”になること、である。


沼田氏
沼田氏
昔から先代も言っていることだが、定年して会社を辞めた時に、“ああこの会社に勤めていてよかったな、幸せだったな”と思ってもらえるような会社にしていきたいのです。
それが、当社が掲げている“幸福度No.1”の会社というのにも繋がってきます。

こう語る大きな理由として会社の中心は“人”だというのが沼田氏の考えである。
では、その幸福が結実する先には何があるのだろうか。

 

九州の電気は自分たちが守る。使命感を持った社員が自社の強み。

自社の強みを沼田氏は使命感があること、と言い切る。


沼田氏
沼田氏
“九州の電気は自分たちが守っている”という強い使命感を備えた社員が集まっていることが強みであり財産です。
これがあるからこそ新しいものへチャレンジすることができるし、その根幹が揺るがないためにも、安全と品質はきちんと確保しなくてはならないと考えています。

努力は続けなければならないし、魅力的な会社じゃないと若い人達は入って来ないのではないかと思っています。
必要な時間外労働はしなくてはいけないと思います。
一方で、プライベートをちゃんと確保できるようにすることもまた、会社としての課題です。
どれだけDXに投資するか、DXにまつわる施策を進めて成果を出していくことが、これからの人員確保に直結してくるはずです。

強い使命感を持つ社員を、強いリーダーシップでまとめあげ、施策を自ら最前列で牽引する沼田氏の改革はまだまだ続く。