建築、設備、BPOまで〜オール・スパイダープラスの台湾現場より
清水建設様が台湾に拠点を設けたのは、前身の清水組が1930年に事務所を設立したことにさかのぼります。
時代が変わって2023年、世界的に関心の高まる半導体関連の大型施設の現場では、建築、設備の全てにSPIDERPLUSが導入され、検査の事前準備ではBPOサービスである「SPIDERPLUS ASSISTANT」もご利用と、「オール・スパイダープラス」の様相を呈しています。
日々SPIDERPLUSをご活用のローカルスタッフの方々も交えて、お話を伺いました。
◆お話:
水野真樹 様(日商清水營造工程股份有限公司 台灣分公司)
漆原正弥 様(日商清水營造工程股份有限公司 台灣分公司)
王昭嵐 様 (日商清水營造工程股份有限公司 台灣分公司)
黃炯樺 様 (日商清水營造工程股份有限公司 台灣分公司)
劉郢廷 様 (日商清水營造工程股份有限公司 台灣分公司)
ー本日はお時間を割いてくださり、ありがとうございます。
はじめに皆様について簡単に教えてください。
水野様(以下M):私は台湾にやってきて、まもなく6年目を迎えます。
今の現場が2つ目のプロジェクトです。現場を取りまとめる以外に、受注活動も長く行なっています。
漆原様(以下U):建築の部門で働いていて、台湾に来てからは2ヶ月目です。
以前は日本国内で現場を4つ担当していました。
王様(以下W):こちらの現場で施工監督をしています。
以前は設計の仕事をしておりました。
黄様(以下H):現場で施工管理をしています。
大学を卒業して初めての仕事です。
劉様(以下L):施工管理をしています。
実は以前、大学に通いながら測量の仕事をしていたのですが、その時の知見が現在の専門工事業者の方々を束ねる際にも役立っています。
ーところで、SPIDERPLUSを導入した背景にはどのようなことがあったのでしょうか。
M:清水建設には自社開発した配筋ツールがあります。
チェックシートも含めて国内の現場に特化したものです。
国内に特化している分、海外の現場で使うには厳しいと感じることもありました。
SPIDERPLUSは国内現場など、特定の条件下に特化していないため、帳票のカスタマイズ性も高いです。
当初は設備検査の機器連携について興味があり、お話を聞いたのですが、その際に建築オプションやBPOサービスがあることを知り、それならば設備だけではなく建築オプションやBPOサービスもあわせて使ってみようと思い、導入を決めました。
ーここまでサービスラインナップを最大限に活用している例はまだ多くありません。BPO活用は何が決め手になりましたか。
M:配筋検査の事前準備などでは、アイコン設置作業を行なう必要があります。
そこに時間を割くよりも、BPOを活用すれば、現場のスタッフがより本質的な業務に時間を割くことができると考えました。
現地スタッフが語る、操作性とメリット
ーSPIDERPLUSは英語対応もしておりますが、皆様が普段お使いの言語版を教えてください。
W:私は母語が英語なので英語版を使っています。
H:私は英語版を使っています。日本語版だと、ひらがなやカタカナなどが混ざるため、英語のほうが好都合です。
L:私は日本語版を使っています。
ーそれぞれ異なる言語をお使いではありますが、操作にはすぐ慣れましたか。
H:初めて使っていますが、すぐに慣れることができました。
現場でアイコンをタップすると、すぐに撮影した内容などを確認できるので便利だと感じています。
また、高温多湿の環境では、紙図面がすぐにふやけてしまうことがあります。タブレットだとそうした問題もありません。
L:操作性にストレスを感じることはありません。
ー操作性について、高い評価をいただいたところではありますが、使っている最中に不明なことがあった際はどのように解決していますか。
W:私は漆原さんにすぐ聞きます。
H、L:私達はまず自分で色々試してみて、解決しなければ漆原さんを頼ります。
ー漆原様のもとには現地の方の困りごとが集結するのですね。
U:そうですね。現地スタッフが相談してくれることを元に、SPIDERPLUSの使い方を覚えることはもちろんですが、情報の探しやすさを向上させるためにフォルダ構成を見直して、全体的な使い勝手をよくすることにも役立てています。
スパイダープラスには英語マニュアルや英語および多言語字幕付き動画マニュアル、サポート、オンライン勉強会などのサポート体制があります。
現地スタッフは自発的にマニュアルを見る以外にも、オンライン勉強会に参加して操作を習得していきます。
ただ、日頃現地スタッフと接していて感じるのは実際に示すということの重要さです。
スパイダープラスのサポート体制を活用することに加えて、実際に目の前で操作をしてみせると彼らにとって「復習」にもなるので、より伝わりやすくなると感じています。
海を超えたトランスフォーメーションを見つめる
ー現場でSPIDERPLUSを活用していて、現時点での業務効率化はどのぐらい進んでいますか。
U:写真帳票に関するところがとても大きいです。
ボタン1つで帳票を生成できるので業務の手間が7割程度削減されて効率があがっているのではないかと思います。
また、清水建設では独自のBAシート(※Before Afterの略)というものがあり、対応箇所の報告に使うのですが、シートを埋めていく際にもSPIDERPLUSから内容を転記することができるため、作成の手間が削減されています。
また、BPOサービスの活用で、配筋検査の前に行なうアイコン設置などの作業がなくなるので、現場のスタッフは施工管理業務に集中することができます。
今後、設備工事が開始されたら、建築と設備の情報をSPIDERPLUSを介して連携し、機器連携機能を活用した検査業務の効率化だけではなく、現場全体の効率化を更に進められるので、日系企業に限らず、地場企業の協力業者も含めたローカルスタッフにも積極的に使ってもらいたいと考えています。
ー本社(国際支店など)との間でSPIDERPLUSを活用することはありますか。
U:出張者に対して、現場に来る際の社内検査時に使用したり、現場の事務的なことを図面上で共有したりします。
M:日本側と情報共有をする際、そのための資料を作成することになりがちです。
そうするのではなく、SPIDERPLUSという共通のプラットフォームを介して情報をそれぞれが見に行くことで伝達できるようになると、仕事の仕方それ自体を変えることにつながっていきますね。
本質的にはそうした趣旨のもとに活用していくことを目指したいです。
台湾建設業界事情とデジタル化の可能性
ーところで、台湾の建設業界事情についてお話をお聞かせください。
率直に、一番違いを感じるのはどのような点でしょうか。
U:品質に関することです。
日本ではトラブルが起きないように作業をしていきますが、台湾では問題が起きてから考える文化があるように思います。
M:品質に関してはとにかく悩みが多いです。
日本の基準をそのまま台湾や他の国に当てはめて、その通りに進めることは困難です。
できる限り、日本と同じようにできるよう、詳細に説明をしますが、実際の仕事の質は作業をする人に依存してしまいます。
つまり、仕事そのものや、品質に関してそれぞれの背景の違いが現れるのです。
このような経験を経て、当地の技術の延長上にターゲットを据える方針に変えることにしました。
国が違っても、仕事の上で譲れないポイントは必ずあります。
そこだけは何としても守りますが、それ以外のことは追いついてくるのを待つということも重要だと考えています。
ー大変興味深いお話です。
目下日本では、2024年4月に始まる働き方改革関連法の適用を背景に、労働時間の短縮がDX推進の大きな要因になっています。
台湾の建設業界では、労働時間をめぐる状況はどのようなものでしょうか。
U:日本に比べると、時間にはゆるいところのある土地柄だと感じています。
工期の遅れに対しても日本とは異なることが見られます。
日本のように、長時間残業をしてでも工期を守るということはありませんが、遅れる場合には、施主も含めた工事関係者がそれぞれに主張をしながら着地点を見つけていく文化があるのが一般的だと言えます。
ー先ほど仰っていた「問題が起きてから考える」ことと通じるものがありますね。
では、台湾の建設業界でデジタル活用をすることの価値はどういう点にあるのでしょうか。
M:台湾の建設業界は保守的なところがあり、現場のデジタル活用はまだまだこれから伸びていく余地が大きいです。
顔認証技術の導入や、カメラによる現場のモニタリングは普及していると思います。
U:デジタル活用はまだまだですが、公共工事では、提出しなくてはいけない帳票類が多いのも特徴です。
SPIDERPLUSは帳票作成がボタン1つで出来ますから、公共工事を担うところには特に便利に活用できるのではないでしょうか。
M:台湾の建設業では人手の不足が深刻です。
専門工事の種類によっては、本当に人が集まりにくい状況が続いています。
また、若年層の確保がとても大変です。
台湾の若い人たちに対して、建設業で働くことの魅力を知ってもらうためにも、SPIDERPLUSの活用を知られることはプラスに働くのではないか、と考えています。
また、台湾だけに限らずベトナムやタイをはじめとしたアジア各国においても、SPIDERPLUSは現場業務の効率化に役立つと感じています。
ー今回は台北オフィス総経理(※日本語では組織のトップ、の意味)の藤川様と、設備部長の菊地様にもお時間を割いていただきました。
貴社は海外市場でも実績が豊富ですが、藤川様と菊地様ご自身も海外市場との関わりは深かったでしょうか。
藤川様(以下F):私自身は2006年に中国に赴任し、その後インドを経て台湾に移りました。
菊地様(以下K):私は20年以上海外に勤務していて、ヨーロッパを数カ国とインドを経て台湾は4年目です。インドでは藤川さんと一緒でした。
ー台湾でまたご一緒になったのですね。
海外での豊富なご経験から、台湾の建設市場をどのようにご覧になっていますか。
K:台湾の建設業界では、IT導入があまり進んでいないのが現状です。
保守的で新しいことをしようとしない風潮が見られます。
今回のSPIDERPLUS導入が、新しいものを使っていくよいきっかけになったら良いと考えています。
ーでは今回導入のきっかけは現地特有の事情を背景にしたのとは少し違っていたのでしょうか。
K:そうですね。ノウハウは協力業者に蓄積される一方、ゼネコン設備部の現地スタッフは協力業者から出てくるものを確認するのが主な役割です。
スタッフの技術的能力を高めるためにもSPIDERPLUSを導入し、日常的に使うことによって彼ら自身のスキルアップにも繋げて行けたらよいと考えました。
ーありがとうございます。
日本とは事情が異なる台湾で、SPIDERPLUSを使っていくことの価値はどういう点にあると思いますか。
F:菊地さんがお話ししたように、現地スタッフの技術レベルを補完していくところに期待しています。日々の業務を通じて、工事の進捗が協力業者任せになることなく、自分たちが進めていく仕組みの中に据えたいのです。
ーところで、貴社は台湾市場では長い間既に豊富な実績をお持ちです。
自負などはおありですか。
F:海外事業に関わっていると、日系企業が現地で仕事をすることの趣旨が変わってきているのを感じます。
昔はどこの場所でも同じサービス、つまり品質や工程、安全管理でやること、そうしたことを通じて日本企業の海外進出を手助けするという大義がありました。
今は現地化を進めなさいという方針になっていて、現地スタッフの割合が増えています。
日本人駐在員もこれからさらに減っていくのではないでしょうか。
そうなったときにSPIDERPLUSのようなICT活用が根付いていくようにしたいと思っています。
ー建設業のIT活用について、大きなポテンシャルを目の前にしてSPIDERPLUSへのご期待についてお聞かせくださいますか。
F:今回の現場はとても重要なものと捉えています。
この現場でのSPIDERPLUS導入をきっかけとして、現場スタッフのICTに対する意識変化や技術レベル向上に繋がっていってほしいと思っています。