プラットフォームで支え合いながら前に進む
東武鉄道は東京、千葉、埼玉、栃木、群馬の1都4県に路線網を持つ鉄道会社です。
鉄道部門の建築担当では、SPIDERPLUSを活用した鉄道施設点検業務を行い、お客様が安全・快適に駅をご利用できるような予防保全業務に取り組んでいます。
さらに、将来の働き手不足に備え、同社の委託会社である東武エンジニアリング株式会社をはじめ、グループ外の協力会社を巻き込んだ共有データベース(以下、プラットフォーム)を構築し、関係する方々の業務効率化を目指すことについて、お話を伺いました。
お話
東武鉄道株式会社
鉄道事業本部 技術統括部 施設部 建築土木課 課長補佐(当時)
井上 正之様
鉄道事業本部 技術統括部 施設部 建築土木課 課長補佐
塚越 勇人様
東武エンジニアリング株式会社 建築保全部
長田 彩花様
松本 一弥様
木村工業株式会社 代表取締役
木村 則之様
河本工業株式会社 営業本部 課長補佐
小宮 勇介様
本日はこれだけ多くの方にお時間を割いていただき、ありがとうございます。
始めに皆様の役割をお聞かせください。
SPIDERPLUS導入前は紙ベースでの点検業務も経験していて、SPIDERPLUS導入後は更なる活用方法を目指し、職場内で提案なども行っています。
駅等の点検にてSPIDERPLUSに収集したデータを活用して修繕計画などを立てています。
駅設備の修繕では若手社員が活躍している
駅の不具合箇所の確認業務は、見なければならない項目や、記録する内容、必要な携行品もとにかく多かったです。
紙に代わってSPIDERPLUS一つで効率よく業務を進めることが可能になりましたので、これを機にSPIDERPLUSの利活用方法を吸収して、今後の業務効率化に活かそうと考えています。
SPIDERPLUSの導入から間もないため本格的な活用はこれからですが、業務効率化や省人化は我々にとっても課題です。
メインで活用していく現場の施工部隊にとってもデジタルツールを活用していくのはまだまだこれからですが、東武鉄道様と現場の施工部隊との橋渡し役を担っていきます。
東武鉄道 井上様・塚越様:我々は東武鉄道の鉄道建築部門に所属しており、鉄道施設の修繕から大規模改修等を担当しています。
我々の役割は現場で作業を担当する方々が働きやすい環境を作り上げることです。
将来の働き手不足が見込まれる状況下で、少しでも現場で効率的に仕事をしてもらえるようにSPIDERPLUSを導入しました。
点検結果を次のアクションへ活かす〜導入前の課題
点検結果の取りまとめに時間を要し、肝心の点検結果に基づいた修繕計画を立案に時間が裂けない状況からの脱却
SPIDERPLUS導入以前の課題をお聞かせください。
しかし、従来の事後保全から予防保全へと切り替えるべく、鉄道施設の点検から修繕までを担う専門会社である東武エンジニアリング建築保全部を2015年に立ち上げました。
会社設立から数年経ち点検自体はスムーズに行われていたものの、点検結果の取りまとめに時間を要しており、肝心の点検結果に基づいた修繕計画を立案することに時間が裂けない状況でした。
そのため、2020年にSPIDERPLUSを導入し、アナログで行っていた点検をデジタル化することで業務効率を改善し、本来エンジが行う修繕計画の立案に集中出来る環境を構築しました。
当時の点検はどのように行われていましたか。
紙が基本の点検では、毎回事前準備も含めて大変な時間を要するのと、当日の荷物が多くなり体力を消耗することが悩みでした。
また、現地で手書きした内容を、事務所に戻ってまとめる作業も非常に時間がかかっていました。
とにかく紙の量が多かったです。
施設ひとつあたり、チェックシートが10枚以上、図面が2〜3枚、写真台帳の枚数はチェックシートに準拠します。1日あたり駅を3つ点検すると、それだけでも紙がさらに大量になります。
紙に書き込んで写真を撮って、事務所に戻ってから内容に間違いがないかチェックをしていきますが、風の強い日や雨の日だと、紙そのものが破けたり文字が滲んだりしますし、手書きされた字の判読などの確認に時間がかかっていました。
撮影してもらった写真と点検場所の整合が取れているのか、現地で点検をした担当者同士で記載内容に相違があったなど、点検そのものは終わっていても、ひと駅ごとに最終的な報告を終えるまでに確認しなくてはならないことが大量にあり、21時や22時頃までExcelへの入力作業をしていました。
こうした状況だったため、東武鉄道へのフィードバックがとにかく大変だったという記憶があります。
点検結果の取りまとめに21時や22時までかかっていたのを、1駅あたり15分程度までに短縮
駅設備の点検例。前年に確認されたチェック箇所に問題がない場合はチェックマークのスタンプを押し、対応状況がひとめで分かるようになっている
実際にSPIDERPLUSの活用が始まってみて、どのような効果を感じましたか。
こうしてタブレット1台を持つことで、過去の点検結果を容易に参照することが可能となり、点検がスムーズに出来るようになりました。
また、紙の資料では時間を要していた文字の判別をする手間も無くなりました。以前は点検結果をExcelに起こす作業をするとあっという間に21時や22時まで時間がかかっていましたが、現在は1駅あたり15分程度までに短縮できています。
大量の紙類を詰めたリュックを背負っていたのが、トートバッグにタブレットを1台だけに
SPIDERPLUS導入のビフォーアフター。
両手に載せているのは図面やチェックシート、報告書類(これでもごく一部)を綴じたファイル。
現在はこれらの書類がタブレット1枚に姿を変えている。
実は私が入社したタイミングは、既にSPIDERPLUSが導入されてからでした。
前年まではチェックシートの文言と図面の文言が一致しているかを確認する手間がありましたが、点検結果の出力という点においては駅あたり15分ほどで済んでいると実感しています。
先輩たちからSPIDERPLUS導入前の話を聞いたことがあるのですが、チェックシートにペンでメモや記録事項を書きこむと、雨天時の点検では、図面やチェックシートなどが破けるなどの苦労話を聞いていました。
北千住のような規模の大きな駅だとチェックシートだけで40枚を超えるため、まずはどの用紙に書き入れるのかを確認するだけでも気が遠くなりそうだったという話が印象的でした。
このようなこともあり、SPIDERPLUSを活用することのありがたみを感じています。
以前は大量の紙類を詰めたリュックを背負って行っていたのが、現在はトートバッグにタブレットを1つ入れるだけになっています。
協力会社の苦労を一緒に解決していく共通プラットフォームの構想
ところで、今回の取り組みでは東武グループ外の協力会社とのプラットフォーム構築が特徴ですね。こうした構想は当初からあったのでしょうか。
キッカケは、エンジからSPIDERPLUSをもっと活用したいと相談を受けたときでした。
お恥ずかしい話、私たちは直接的にSPIDERPLUSを使用していないので、使用感はぼんやりとしか理解していません。
彼らからSPIDERPLUSの様々な活用方法を聞いているうちに、他の協力会社も書類や写真の整理、図面管理などで苦労をしているのではないかと感じました。
将来的な人手不足を考えると、遅かれ早かれ何かしらのデジタルツールを各社が導入することは当然予想していました。
それならば、関係する皆が“同じもの”を使うことで、より大きな効果をあげられるのではないか、とシンプルに思ったのです。
この段階ではプラットフォームというより、各社の業務効率化程度にしか考えていませんでした。
各社がどのように活用出来るか、同じものを使用した場合どのようなメリットがあるかなど、SPIDERPLUSの営業の方へ相談し、一緒に考え始めました。
その後、協力会社を集めて行う定例会議の際、SPIDERPLUS導入のお願いを各社に対して行ったのですが、そこで初めて共通プラットフォームの構築という言葉を使ったと記憶しています。
私自身、各社がSPIDERPLUSを導入するメリットについて考えがまとまっていませんでしたが、全員で同じものを使うことは絶対メリットがある!という謎の自信だけで、熱く参加者の皆さんに語り続けました。(笑)
その中で「共通プラットフォーム化」というフレーズを勢いで話したような記憶があります…。
プラットフォーム化というと難しく聞こえますが、エンジが行った点検結果、それに伴う修繕の施工状況など各種資料を全てSPIDERPLUS内で相互共有することで、関係者全員で業務効率化が目指せるのではないか?!と話していくうちに考えがまとまっていきました。
会議の後は、その勢いのまま早々に各社へお邪魔し、SPIDERPLUSを導入することでのメリットを丁寧に説明し、プラットフォーム化の考えについてご賛同をいただきました。
人手不足が進む中、デジタルツールの活用は将来的に必要だと考えが変わった
人手不足も進んでいく中で、デジタルツールを活用していくことは将来的に必要だろう、と語る協力会社のひとつ、木村工業の木村様
東武鉄道との仕事を振り返ると、点検内容をプリントアウトして、現地でチェックしたら設計図との違いと竣工後を見比べて書きこみ、会社に戻ってきてから指摘事項をまとめるというように、とにかく扱う量が膨大でした。
現場には設備の図面だけではなく建築の図面や基礎の図面も持って行くので、紙の図面や資料類だけでもかなりの枚数になります。
現地の担当者でさえ、現場でどの紙を見たらいいのか分からなくなるほどですが、だからと言って持っていかないわけにもいきませんでした。
また、私自身も経験したことではありますが、現場から戻り、点検結果や作業結果をその日のうちに全てまとめることは、体力的にもとても疲れていて厳しかったことを記憶しています。
時間が経ってからまとめると、今度は転記内容の忘れなどが起きやすくなってしまいます。
それらが、現場にてタブレット1台で済むならば、効率は全く違うものになるはずです。
社員たちが使っていくのはまだまだこれからですが、使いこなし次第で仕事のしやすさや精度などが変わってくるはずだと期待をしています。
私たちが直接お邪魔すると聞いた際、正直な感想としてどのように思いましたか。
デジタルツールの営業はたくさん来ていたので、その1つ程度と考えていました。
お話を伺ううちに、人手不足も進んでいく中で、デジタルツールを活用していくことは将来的に必要だろう、と考えが変わっていきました。
建設業界の厳しい状況を肌で感じている方たちと、迫りくる危機に備えていきたい
自分たちが既に享受しているメリットをお伝えしたうえで、SPIDERPLUSを導入することで、どのような未来を実現出来るか一緒に話しました。
鉄道事業は多くの協力会社の手助けがあって成り立ちます。
民間の調査機関によると、2040年に建設業には60万人以上の人手が足りなくなると言われています。
木村工業さん、河本工業さんなど、建設業界の厳しい状況を肌で感じている方たちと危機感を共有し、迫りくる危機に備えていきたいと伝えていきました。
先月には操作に関する勉強会が開催されましたが、参加してみてどう感じましたか。
自身の現場担当時代を振り返ってみると、写真整理は本当に大変でした。
豆図と写真と文言を突き合わせる労力がなくなるので、仕事全体のうち、かなりの部分をコア業務に割けるようになり、だいぶラクになると思います。
すぐ近くで同じものを使う人がいる〜より働きやすい環境づくり
他の協力会社も同じものを使うならば、きっと大丈夫
他の協力会社も同じものを使うならば、きっと大丈夫だろうと思うようになった、と語る協力会社のひとつ、河本工業の小宮様
施工業者は相手の要望に従うことが多く、こちらから提案するよりは要望に合わせて仕事をしていきます。
会社としてデジタル化を推進する流れがあったのですが、現場が皆同じように前向きかと言うと、個人差があります。
現場ごとにデジタルツールの試験運用もしましたが、成果を出すには至りません。
井上さんが「みんなでやっていきましょう」と話してくれたことによって、東武エンジニアリングや他の協力会社も同じものを使うならば、きっと大丈夫だろうと思うようになりました。
業務を効率化させるのではなく、従来業務に加えて新しいツール運用が加わるという風に捉えてしまっていたようです。
普段、皆スマホでテキストコミュニケーションなど色々なアプリを使っているはずなのですが、一時的に負担が増えるような受け止め方をしてしまうんだなと気づきました。
私達はそういう声を集約して、フィードバックをすることで、皆様にとっても効率的かつ使い勝手の良いものにしていきたいと考えています。
プラットフォーム化で支え合いながら前に進む
駅設備修繕でのSPIDERPLUS活用例。多目的トイレ内の設備不具合を確認し、写真撮影をする
これから本格的な活用が始まります。この先3年が経ったとして、皆様はどのような理想像を描くでしょうか。
また、現場の打ち合わせや修繕について、成果物のやりとりをよりスムーズにできるようになりたいです。
SPIDERPLUSは連携機器を使う機能もありますが、それらも活用しながら詳細な調査ができるようになると、もう少し違う角度からの修繕への活用も見えてくると思います。
効率的に状況を共有できると、コア業務に割く時間をもっと大きくできるはず
協力会社にお願いする立場としては、現場の写真撮影枚数が多いとメールで送ることができず、他のサービスを介して写真だけを送ってもらいますが、そうした場合はどこから見て撮ったものかがわかりません。
SPIDERPLUSならばどこからどの場所を撮ったかも図面上の矢印アイコンなどで把握できるので、確認の手間も必要ありません。
こうして写真だけを例に挙げても、SPIDERPLUSで円滑化できることが色々あります。
工事の進捗共有は時間や場所の制約がまだありますが、データを介して効率的に状況を共有できると、コア業務に割く時間をもっと大きくできるはずです。
また、社内では情報の蓄積や事務連絡全般などでも活用している他のシステムがあります。
SPIDERPLUSと連携させることによって、点検結果を次のアクションに活かすための連絡や、そのためのまとめ作業などもさらに効率的になると良いと考えています。
これまでは現場の修繕の際、大量の紙とガラケー、デジカメを持っていましたが、そういうスタイルからタブレット1台だけで仕事をするのが当たり前のようになっていきたいです。
3年後はそれがより顕著になると思います。
社内でも、東武鉄道や東武エンジニアリングの皆さんとも、SPIDERPLUS活用について習熟度があがり、SPIDERPLUS上で業務が完結し、仕事のやりとり自体も完結させていけるのが理想です。
今回の修繕プラットフォームが始まったことを元に、修繕以外に鉄道の建築系のところでも共通して使うなど、他の部門とも共有して使えば、進め方の統一なども見えてくるだろうし、さらに大きな成果をあげられると思います。
この1年でまずは導入していただいた方々の仕事が便利になることについて、経験や体験を重ねて欲しいと思っています。
そのため、業務の成果物は極力SPIDERPLUSで作るように、とお願いをしています。
操作に慣れるまでの間は少し大変に感じることもあるかもしれませんが、3年後は我々との仕事以外にも、各社の業務で活用していただき、双方にとって有意義なものになると良いと考えています。
一つでも多くの修繕が進み、当社が安心してご利用いただける沿線として、お客様から選ばれることを目指したいです。