【インタビュー】「業務効率化できない企業は淘汰される。」苫小牧のゼネコンが語る、自ら活躍できる若手が育つ理由とは?
お話:
盛興建設株式会社
執行役員建築部長 林良介様(写真向かって左側)
新卒5年目 干上様(写真向かって右側)
若手に残業はさせない!10年間で辞めたのは1人だけを実現するワークライフバランス重視の方針
盛興建設株式会社は苫小牧の土木工事・建築工事施工業で創業は1962年である。
同社では盛興建設は会社全体で残業時間を減らすことや、休暇の取得など、社員のワークライフバランスを全社的に重視している。
また、若手の育成に重きを置き、デジタルツールの導入も積極的に行なっているのが特徴である。
同社を退職したのはこの10年で1人だけであるというが、このような取り組みは、執行役員建築部長である林良介氏本人の、若き時代の苦い経験が背景のひとつとなっている。
盛興建設株式会社 林氏
「家庭ファースト」にした方が社員の家族にも良いし、本人たちの健康にとっても良い。
自分の若い頃はこんなに苦労したんだから、若いやつもやれ、っていう人もいるけど、今はそういう時代じゃない。
ワークライフバランスのみならず、現場での働き方についても若手社員の主導による効率化が進んでいる。
若手社員が主体的に現場の効率化を進める実態
同社の現場でデジタルツールを率先して活用する1人が、新卒入社から5年目の干上氏である。打合せなどで紙をなるべく減らせないか、と思ったことがデジタル活用の工夫のきっかけである。
干上氏をはじめとする入社年次のまだ浅い社員たちが現場事務所にモニターを導入したり、入場者に対する教育説明資料を音声化するなどの遠隔臨場までを牽引しているのである。こうしたデジタル活用によって、空いた時間には事務作業をこなすことができ、効率化になっている。干上氏が発案したこれらアイデアには林氏も驚きを隠せない。
若手社員を主体的に活躍させている背景として、林氏は次のように語っている。
だからこそ若手社員には残業をさせないし、2年目までは絶対に残業させない方針です。
それに、いいものがあればどんどん取り入れるようにしています。
若手社員が今すごく勉強してくれているからどんどん変えてくれると思っているんです。
現場のことをわかっている人間でなければ現場の働き方を良くするための新しいアイデアは出てこないし、若い人からの意見がないと何を入れたら良いかわからないんですよ。
いまいる人数で解消したい「人手不足」
建設業では人手不足問題が長年の課題である。人手不足への解決策は人を増やすことだが、林氏は「今の人数で効率化して」解消を目指している。
人手が不足していることについて、単に絶対的な人数が減ったのではない、と林氏は見ている。
残業時間を削減する取り組みもあることで、割くことのできる労働時間に限りがあるという要因もありはするが、受注した案件の量が、いまいる人員に対して多いのである。現在の課題について林氏は言う、
「ただ従業員を増やしても、その後仕事があるわけでもないので難しい」
そこで、存在感を大きくしてくるのが業務効率化の取り組みである。
以前より3人で担当する現場を2人で進めることを目指していて、それが出来ています。
ただ、それは現場社員の技術力や熟練度に依る部分が大きいのです。
5~10年すると、一気に彼らの引退が始まります。
そのためにも効率化を第一に若手の教育が急務なのです。
デジタルツールを含む効率化の取り組み
デジタル活用を含む効率化の取り組みは大きく2軸で、人手の補完とデジタルツールの活用である。
人手の補完、施工図に関する作業は派遣社員を活用し、必要最低限の人数で現場を回していくことを目指して取り組みが進んでいる。
前述のように、若手社員主導のデジタル化が進む同社だが、改めて先に挙げた課題のためのデジタルツール活用について、干上氏は次のように語っている。
盛興建設株式会社 干上氏
デジタルツールによっては設計図を見て紙に書く必要があり、SPIDERPLUSを導入することでこの過程が無くなって、クリティカルに効率が上がりますね。
今はJV現場に常駐しているのですが、学ぶことも多い環境であることが刺激になっていて、率先して効率化を目指していこうとしています。
個人としてSPIDERPLUSを使わなくていいと思う人はもういないです。
大規模改修現場では複数企業の乗り入れによる実証取り組みも行なわれている。
仕上検査機能を活用したタイルの打診検査や帳票を一気に出力できる様子を見た林氏も「すごく楽だな」と語っている。
SPIDERPLUSを導入したことによって、現場には設計図を持っていく必要もなくなり、図面や書類の整理も不要になった。
効率化の次に目指すこととして、休日に他の現場が動いていると落ち着かないことからの脱却を掲げている。
DXが進みにくいことの「なぜ」?取り組まない会社は淘汰されると語る理由
建設業でのDXがなかなか進みにくいことの背景として、林氏はベテラン人材の存在を挙げる。
ベテラン人材にはデジタル活用への抵抗を持つ傾向が見られることに加えて、そうした人材に気を使ってしまう風潮もあるという。
同社で若手社員が推進する背景のひとつである。
こうした事情を踏まえてマニュアルの整備も若手社員が積極的に行なっている。
もう一つは、デジタル活用の遅れを課題と感じていないこと、である。
これは現在デジタル活用を積極的に牽引する干上氏自身にも盲点だった。現場での携行物が多いのは当たり前のことと思っていたのである。
デジタル活用がなかなか進まない会社の置かれた状況を、林氏は次のように語っている。
「(取り組めない会社は)残業はダメという感覚がない、残業や休日出勤を当たり前だと思っているのではないか」
このように強調した上で、業務効率が悪い会社は入札に参加しないし、点数が低いままであれば受注の差も開いていくという現実がある。
そういう技術はこの何年かでかなり前進していると感じています。
「やっと持ってきたか」と社長がこぼしたSPIDERPLUS導入
SPIDERPLUS導入が決まった時に同社の原広吉社長は「やっと持ってきたか」とこぼしたそうである。
デジタルツールを活用する取り組みはSPIDERPLUSが初めてであったが、働き方改革に関する様々な取り組みが後押しとなり、SPIDERPLUS活用はすんなり受け入れられた。
営業提案があった際にも原社長は歓迎し、デジタル活用施策をもっとしてほしいと林氏に伝えたのである。
干上氏はSPIDERPLUS導入によるペーパーレス化で悪くなったことはない、と言い切る。
紙ベースで仕事をしていた時は資料を無くしたりするなど、リスクの方が多かったのです。
ペーパーレスになることでのデメリットは一つもありません。
同社では、もっと徹底的なペーパーレス化を図っていきたい方針である。
様々な効率化を感じてはいるが、日中は現場、夜に事務作業ということがまだ多いため、ペーパーレス化を徹底させることによって、日中でも事務作業に時間を割けるようにしようとしている。
また、専門工事の職人たちを含めた効率化も今後の課題である。
危険予知や日報を毎日書くことについての相談が職長から寄せられており、同社ではS+Partnerを活用した効率化に関心を寄せている。
もう一つ取り組もうとしていることは、DXを人材獲得に活用することである。
DXすれば若手も育つ
業界の悪しき常識に流されない働き方改革や、デジタル活用の推進とそれを引っ張る若手社員の即戦力化に成功している同社に、もしもデジタル活用がなかったら現在のような会社の姿をしていたと思うか、と林氏に尋ねてみた。
もしも自社がデジタル化に取り組んでいないまま5年、10年が経ったらどんな風になっているだろうかと考えることがあります。
組織の規模をどんどん縮小していく一方ではないかと思うのです。
仕事の効率が悪くなると、今後の入札はデジタル活用や働き方改革など、よりよい取り組みを積極的に行なっている企業に加点される時代になっているのではないでしょうか。
もしも業界がそういう方針になっていれば、受注することも出来なくなるし、そこから自分たちの状態を最盛期などのように戻すのはかなり難しくなると思います。 デジタル化はそれくらい当たり前に行なっていくべきです。
もうひとつは人材への影響です。それ自体が退職理由にもなっていきます。
5年前にDXに舵を切っていなかったら若手社員は退職していたと思います。
残業時間はもっと減らしていけると見ています。
このように強調した林氏に、同じ建設業者へのメッセージを聞いてみると、次のように語る。
DX促進自体が若手の採用や退職の抑止につながり、その結果として人もどんどん育っていくはずと思います。